ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
そろそろかなあ、と思って部の入り口をチラチラ見ていたら、ついにその人は現れた。

担当役員の何とかさんの後ろから颯爽と現れたのは、仕立ての良さそうな濃紺のスーツに、白のシャツにアルマーニかジバンシーと思われるストライプのシックなタイをキリリと締め、背筋はピンとして身長おおよそ180センチぐらいのまだ若い男性。


うわあ、若いんだあ。私はてっきり50歳ぐらいだと思っていたのだけど、“ミスター日電”こと新藤龍一郎さんは、推定年齢40歳ぐらいに見える。長くもなく短くもない黒髪はきちんと整髪されていて、濃いめの眉毛はキリッと真一文字で、その下の目はやや細めで鋭く、ちょっと怒ってるように見えなくもない。


なんか、見てるだけで胸がドキドキするほどカッコいい。素敵。私の好みのど真ん中のストライクって感じ……

周囲の、特に女子社員の息を飲むような気配を感じたけど、それはたぶん勘違いではないと思う。


自ずと私達は立ち上がり、新部長である新藤さんの挨拶を待った。いったいどんな声で、どんな挨拶をしてくれるのだろう……


役員さんからの紹介の後、いよいよ新藤さんの挨拶となり、私は、というか私達は、固唾を飲んで彼のお言葉を待った。


「新藤です。お世話になります。初めに言っておきますが、私は残業をしません。みなさんも無駄な残業はしないで、早く家に帰ってください」


……えっ?

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