ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
死に別れには嫁ぐべからず
それは私にも想像出来る。日電の営業マンから時々聞かされているから。

聞けば、うちの広告部も残業が多い部署だと思うけど、日電はその比ではないらしい。その代わりお給料は高いらしいけど、お金が大事か健康が大事か、って話らしい。


「僕も日電ほどではないけど、似たようなところがあるからね……。もう子どもは大きいし、僕なんかいない方がかえって清々する、みたいな事を女房は言うけどね、腹の中はわからないよ。今は我慢してて、定年と同時に離婚、なんて事になるんじゃないかってね……」

「課長、そうならないためにも、これからはなるべく早く帰るようにしましょうよ?」

「ん……出来ればそうしたいがね……」

「努力すれば出来ますって。課長が実践してお手本を見せてくださらないと、私達は早く帰れませんよ?」

「確かにね……。努力してみるか?」

「はい」


それにしても、奥様は自殺されたのか……

「お気の毒だわ……」


奥様ご自身もだし、残された新藤さんも、まみちゃんも……


「楠君、今の話は噂だからね? 本当かどうかは分からないよ?」

「あ、はい。そうですね」


と課長に返事したものの、その噂はたぶん本当だろうと思う。現に奥様は亡くなっているわけだし……


そして新藤さんは、自分と同じ過ちを部員が繰り返さないよう、就任早々、私達に早く帰るように言ったのだと思う。それこそが新藤さんの本当の“狙い”なんだわ。時間外のカットなんかではなく。

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