ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
新藤さんが時々見せる憂いのある表情は、そういう事だったのね。きっと彼は、今でも奥様に対する罪の意識に苛まれ、ずっと苦しんでいるんだわ。彼の気持ちを少しでも軽くしてあげられないかしら……


そんな事を考えながら職場に戻るべく歩いていたら、


「楠さん、少し時間をいただけますか?」


制作チームの川田君が、いつも爽やかなイメージの彼にしては珍しく、深刻そうな顔で私に声を掛けてきた。


「いいわよ」


私は、職場に戻る課長に会釈をすると、川田君と共にミーティングスペースへ逆戻りした。


「えっとですね、今日のお昼なんですが、恭子さんが楠さんと一緒に食べたいそうです」


川田君は、椅子に腰掛けるやいなやそう言った。何か深刻な話なのかなと思っただけに、ちょっと拍子抜けした気分だ。


「そう? 川田君は一緒じゃないの?」

「はい、僕は抜きです。先輩と二人だけで何かを話したいみたいなんです」

「ふーん、どんな話だろう。いいわ、分かった。恭子にオッケーって言っておいて?」


川田君の話はそれで終わりと思い、私は立ち上がりかけたのだけど、


「ちょっと待ってください」


彼に呼び止められてしまった。


「ん? まだ何か?」

「はい。昨夜の事なんですが……」


川田君は言いにくそうにそう言い、私はドキッとしてしまった。

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