ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
定時になり、新藤さんはいつも通りさっさと帰って行った。

そんな彼を冷ややかな目で見送る部員たち。一昨日までは私もその一人だったのだけど、今は違う。

今や私は、彼がそうせざるをえない事情を知っているし、そのためにきちんと仕事を時間内に終え、悪びる事なく颯爽と職場を後にする新藤さんが、むしろ格好よくさえ見える。


それから30分ほど経ち、いつもよりだいぶ早めだけど私が帰り支度をしていると、隣の小林課長が「僕もそろそろ帰るかな」と言った。

普段は誰よりも遅くまで残業している課長としては、異例と言っていいほどの早さだ。たぶん、昼間話した事を早速“実践”しようという事なのだと思う。

課長に笑顔を向けたら、課長も照れ臭そうな笑みを返してくれた。


課長と一緒に早上がり(と言っても定時は過ぎているのだけど)すると、周りのみんなは私達が二人でどこかへ出掛けるのかな、みたいな目で見たけど、それは仕方ないと思う。こんな事、今までだったらそうでもなければあり得ない事だから。

きっとこういうのを繰り返す内に、みんなも早く帰るようになるんだろうなと思う。

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