ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「よかったわね? まみちゃん。“りなちゃん”が来てくれて……」


すかさず麻生さんがそう言った。麻生さんにまで“りなちゃん”と言われ、ちょっと気恥ずかしい。


「まみちゃんったら、昼間からずっと楽しみにしてたんですよ。りなちゃん、りなちゃんって……」

「そ、そうなんですか。まみちゃん、ありがとう」


私は嬉しくて、思わずまみちゃんに頬ずりしてしまった。まみちゃんの頬っぺは、ゴムまりのように柔らかかった。


麻生さんにご挨拶をして、私達は麻生さんのお宅を後にした。私は、まみちゃんを抱っこしたままで。


「まみ、こっちにおいで?」

「あ、大丈夫です。私がこのまま抱っこして行きます」


歩き出すとすぐに、新藤さんはまみちゃんに手を伸ばしたのだけど、私はこのまままみちゃんを抱っこして行きたかったのでそう言った。


「大丈夫かい? 結構重いだろ?」

「全然そんな事ないですよ」


実際のところ、まみちゃんは少しも重いと思わなかった。子どもを抱っこした経験はないので、他の子と比較は出来ないのだけど。


「そうかい? じゃあ、バッグは僕が持つよ」

「あ、いいえ、大丈夫……」

「いいから、いいから」


遠慮する間もなく、私のバッグは新藤さんの手に移って行った。そうして頂くと楽なのだけど、ちょっと恥ずかしい。だって、今日のバッグは普段のよりも大きくて、中にはお泊りセットが入っているから。


“結構重いな、これ。何が入ってるんだい?”

なんて訊かれたら、どう答えようかしら……

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