ギャルとメガブス
私は、忘れ去りたかった。

だから、横浜の家から一人再び上京し、割と近場にマンションを借りたというのにも関わらず、生まれ育ったこの街に、私は一度も足を踏み入れることはなかった。


甘ったるいノスタルジックな感覚なんて、ちっとも沸かない。

時折吉祥寺に行く用事などがあり、井の頭線でこの駅を通り過ぎるだけでも、憂鬱な気分になる。


そのくらい、私はこの街を嫌っていた。

街というよりも、自分の過去を嫌っていた。




真っ直ぐに歩こうとするが、足元が覚束ない。

細く尖ったヒールが、更に私の歩みを邪魔しようとしている。


階段を下りようとしたら、バランスを崩して転倒した。

鞄から、財布や口紅がバラバラとコンクリートの床に散らばった。
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