すいません、ここにいますね。

一人暮らし



念願の一人暮らしだ。
ここまで来るのに何ヶ月かかっただろうか。
頑固な親父に心配症のおふくろ。
親父は「自分の身は自分で守れない奴に一人暮らしなんてできるわけねぇ」なんて、言って反対した。おふくろは「あんたが心配なのよぉ。一人でご飯も作れないし洗濯だってできないし…心配だわぁ」なんて。

そうあたしは箱入り娘だ。
そりゃもう筋金入りの。

門限は八時。
甘い物は食べちゃダメ。
炭酸飲料なんて夢のまた夢だ。
衣服は決められたブランドで。
…あ、ちょっと見え張っちゃった。
衣服は、まだ買ったことはない。

そんなこんなで、やっとあたしは念願の!


「ひとりぐらしだぁぁあ…!」







「おーい、ボーッとすんなよユイ!荷物はユイの方が重いんだからな!」

「……へーい。」




あたしの幼馴染がいなければな!




「ったくさぁ、ユイが家事と洗濯が出来れば、俺は今頃ここにいないんだけどね!」

「はいはい、感謝してまーす」

「なにその棒読み感。」

そう言いながらあたしの幼馴染のかずにぃは手際よくあたしの荷物をまとめていった。
かずにぃはあたしの隣の部屋に住むことになるんだけど、実は親父とおふくろが一人暮らしに出してきた条件の中に「かずにぃ」が入ってくる。

「あんた、かずにぃにご飯作ってもらいな。洗濯は自分でやりなよ?かずにぃに迷惑かけないでね?」

…by・おふくろ


やはり、あたしは箱入り娘なのだ。
…いや、まじで。



「ほーら、ユイも百面相してないで、やる!自分のことはなるべく自分で、やる!ユイの下着の面倒とか、俺はしないからな!」

「ぬぅ…。いーじゃんか、あたしのパンツくらい。かずにぃはあたしの下着姿とか見たくせにー!」

「それはっ、ちいさいころの話しだろっ!」

「あ、そっかぁ!…うっかりしてた。もう、一緒にお風呂入ってないね。」

「そりゃあ、な。」

かずにぃは小さい時から変わらないタレ目の目尻を下げた。
なんだか、遠い記憶のようだ。
あの頃は確かに世界が眩しく見えていたんだよなぁ。
ま、あたしはかずにぃをからかうことだけが今の趣味かな。

「…かずにぃ、お風呂一緒に、入る?」

「ユーイー?…俺をからかうなよ?」

かずにぃ、怒ってるー。
やっぱりからかいがいがあるなぁ!

「はーい。…じゃ、かずにぃはそば作ってきて!いっしょに食べよー!」

「…仕方ないなぁ。可愛いユイのためにがんばりますか。」

かずにぃはふーっ、と溜息をついてそれから、よいしょとばかりに立ちあがった。
あたしは…もちろん、荷物整理だ。
ダンボール、何個分なんだろ…。

まぁ、いっちょやりますか!





・*:..。o♬*゚・*:..。o♬*゚・*:..。o♬*゚・*:..。o


「ふーぅ、お腹いっぱいだー!」

「…お前は相変わらずいっぱい食うなぁ。もうお蕎麦なくなったじゃんか。」

「…て、てへ。」

うぅ…。かずにぃの言うとおり。
さすがに食べ過ぎたかも。

「き、きつい。お腹がくるしい…!」

「当たり前だ。…食べ過ぎ。」

かずにぃは軽くあたしを小突いた。そんな子供扱いに頬を膨らませつつも、なんとなーく、ごろーんとしたかったから寝ころぶとかずにぃに「牛になっちゃうぞー」とやはり子供に言うように言われた。
えー、牛になりたくないー。

「…牛になんかならないモー」

「牛じゃん。」





牛はさておいて。
気になったので聞いてみた。

「そういえばかずっち、大学どこだったっけ?」

「だれがかずっちだ。…粋香大学だけど?」

へー、粋香かぁ。

粋香大学はユニークな大学だって聞いたことがある。なにか一つ得意なものを持っていれば粋香大学の席を自分のものにできる。だけど、一般人が受ける試験は超難関らしい。
かずにぃは英語が得意だから選んだみたい。
ちなみに、あたしの志望校だ。

「かずにぃ、めっちゃ頭いいじゃん。」

「おう。」

「え?それ自分で言っちゃう?」

「うん。俺自身、入れるかどうかわかんなかったしさ。入ることができたっつーことは実際、頭いいんだろーね。」

「それもそーだね。…あたしも粋香に行きたいなぁ。」

「行けるようになるなら頑張るしかないな!…まず、お前はお風呂からだな。」

「あ、」

そういえば、動きっぱなしで汗くさいような…。
ずっと荷物整理してたからかな、アハハ…。

「え、エヘヘ。」

「早く風呂入ってこい!俺はその間自分の部屋に帰るわ。…ちゃんと一人で寝ろよ。」


「ひっ、一人で寝れるもん!」

「思いっきり目ぇ逸らすなよ…」



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