愛させろよ。
桐谷先輩の音だけが、浮き上がった。

これが、ソロか。

桐谷先輩の表情は、自信と気品に満ちていた。

音楽の教科書の、桐谷蘭と同じ表情。

あまりにうっとりしていたせいで、気づいた時には曲が終わっていた。

「一回目にしてはいいじゃん」

指揮の先輩が話していた。

「このまま合奏を続けるけど、一年生で個人練が必要な人は抜けても大丈夫だよ」

桐谷先輩がちらりと俺を見た。

「私と相原は抜けます」
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