愛させろよ。
俺は面食らった。

「どうしたのって……さっき俺のことガン無視してたじゃないですか」

「無視? してないわよ」

「ずっと呼んでたし、すぐ隣を歩いてたんですよ」

信号が青になり、俺たちは並んで歩き出した。

「ねえ相原、もしかして、私の右側を歩いてたんじゃない?」

「そうですけど」

「言うの忘れてたかもしれない。私、右耳聞こえないの」

思わず俺は右を向き、先輩の横顔を見た。

先輩の左目は、いつもと同じように静かだった。

何と返していいか、俺にはわからなかった。

「無視、しちゃってたみたいね。ごめんなさい」

「いや……先輩が謝ることじゃないですよ。俺が悪かったです」
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