愛させろよ。
桐谷先輩がふとこちらを向いた。

桐谷蘭というワードに反応したらしい。

茉莉花先輩が慌てて手を振った。

「え、何でもないのよ?」

桐谷先輩は無表情のまま、視線を俺たちから外した。

そんな桐谷先輩を見て、茉莉花先輩は声をひそめて言った。

「……わたしね、藍ちゃんのこと、よくわからないの」

「……茉莉花先輩?」

「何かね、壁を感じるのよ」

「壁、ですか」

「……何でもない。忘れて」

いつの間にか普段の表情に戻って、茉莉花先輩は笑った。

俺は、黙ってうなずくことしかできなかった。
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