愛させろよ。
先輩は顔の前で手を振った。

「あの人が家にいようがいまいが、あまり変わりもないからね」

クラリネットに目をやって、先輩は続けた。

「あの人は練習ばかりしているし」

先輩の瞳に、長いまつ毛が影を落とした。

それから、透明な沈黙が俺たちを包んだ。



「先輩、寂しく……ないんですか?」

沈黙を破ったのは、俺だった。
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