愛させろよ。
宮崎先輩が行ってしまってから、俺は桐谷先輩に聞いた。

「あの……俺、これじゃ練習できないし、どうしてればいいですか」

桐谷先輩は俺を見た。

「練習できないってどういうこと?」

「だって、手が……」

「折ったのって右だったっけ?」

「左ですけど」

「なら、楽器は支えられるでしょう。開放のFは?」

「あ……」

開放のFは穴を全く押さえないから、左手が無くたって関係ない。

「その音は、綺麗に出すのがとても難しいの。いい機会だわ」
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