ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
落としたのか? あの時……あのイカレた妄想女に見せた時に……?

いやいや、そんなはずない。女に見せた直後、俺は内ポケットに戻した。思い違いなんかじゃない、確かに元あった場所にしまった。


「しがない痴漢でーす」

見知らぬ男の声が背後から聞こえた。覇気のない声、しかも酷い棒読み。なのに人を嘲るような、小馬鹿にしたようなふざけた語調。


振り返れば、その声の主らしき男と目線が合う。背が高く、真っ直ぐな長めの黒髪。奥二重の切れ長な目に、緩やかなカーブを描く適度な太さの眉。すっと通った形の良い鼻に薄い唇。

パッと見、冷たい印象を受けるけど、整った顔には違いない。

細身のダークスーツに黒いハーフコート。飾り気がないというより、無駄がないと言った方がしっくりくる。


俺と目が合うと男は、

「ふっ……ふふっ……」

堪えきれなかったように、ほんの少し身を屈めて笑い声を漏らした。


「痴漢じゃねーしっ」

思わずムッとして言い返すが、男が手にしている物に目が留まり、愕然とした。


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