ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
朦朧とする意識の中、霞む視界に二人がぼんやり映る。

「『那智』でいい」

言って、那智はニッと微笑み、高広に向かって右拳を突き出した。

「だな。俺に任せろ、那智」

そう返して高広は、自分の右拳を差し出されたそれにコツッと当てた。


何やってんだ? お前ら……。人が死にかけてるってのに。


高広はふうと一つ息を吐くと、

「おい、いつまで寝てんだ、さっさと立て」

冷ややかに俺を見下げて、無情な言葉を落とす。


「じゅっ……重傷者に向かって、何てことっ! 無茶だろ? どう見ても自力で立つなんて無茶だろ?」

怒りまかせに喚き散らせば、高広はゆったりと落ち着いた動きで、俺の顔の真横にしゃがみ込んだ。


「お前、バカじゃねぇの? 大袈裟にもほどがあるわ」

「何だとぉー!」

「傷は浅い。つーか、ほとんど刺さってねぇし?」

「はぁー? じゃあ、何でこんなに痛ぇの?」

「気のせいだろ?」

「はぁー? 気のせいじゃねぇし! 立てねぇし! 絶対無理だし!」


見るに見兼ねたように那智が口を挟んだ。

「騙されたと思って、一回、立ってみろよ?」

「何だよ、その上から目線! わかったよ、レッツトラーイ、だろ? でも絶対立てな……」

不思議なことに、俺の身体は軽々持ち上がった。


「あ、ほんとだ、立てたわ」

ああ、もう、何かちょっと恥ずかしい。二人から注がれる冷ややかな視線が痛い。



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