ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
いつの間に用意したのか、高広は片手にタオル、もう片方の手には輸液パックみたいなのを持っている。そして、

「俺の濃赤(濃厚赤血球)、もったいねぇー」

とか言いながら、パックの封を開けその中身を抽出しタオルに沁み込ませる。みるみる赤に染まっていく白いそれ。


「これ、そこに当てとけ」

偉そうな命令形で渡され、面白くないけど渋々言われた通りにすれば、

「テッテレェー……ジューショーカンジャー(重症患者)!」

ちびっ子に人気の青いネコ型ロボット風に発声する。

「『どこでもドアー!』みてぇに言ってんじゃねぇよ」

イラッとして思わずつっこめば、那智が俺の横でプッと小さく吹いた。


高広は瞬時に素に戻り、

「さっさと車に乗れ、バカ。俺も手ぇ洗ったらすぐ行く」

言ってクルリと身を翻して背を向ける。


「いっつも不思議に思ってんだけど、何故、みんな俺のこと、揃いも揃って『バカ』って呼ぶんでしょうか?」

本気で疑問に思っていた。俺って、みんなが言うほどバカじゃねぇし。つーか、どっちかっていうとお利口さんの部類に入ると思うんですけど。


立ち止まった高広は顔だけ振り返った。

「裏切られても、裏切られても、人を信じることに臆病にならねぇ。お前は正真正銘のバカヤローだろが」

羨ましいね、と。ボソリ、消えそうな声で続けた高広が、何ていうか……酷く儚げに微笑むから、どうしてだか俺まで切なくなった。


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