ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
『清龍飯店』を目の前にして、二人は立ち止まった。
「この店を通り抜けてようやく、真の濁瀬川地区に辿り着けるって訳か」
真っ赤な看板を見上げて高広が言った。入口はガラスの自動ドアになっていて、そこから店内を覗き見ることができた。『私は裏稼業専門です』と言わんばかりの、いかにもな風貌の男たちが、まばらに席を埋めていた。
「ヤバそうな連中だ」
那智が、溜息と一緒に弱々しい声を出す。
「まあ、お友達にはなれねぇだろうな」
言いながら、高広は滑らかな動きでジャケットの胸ポケットから取り出したサングラスをかけた。真っ黒なレンズの奥に薄っすら見えるその両目は、いつになく鋭い。
「気が乗らねぇな」
那智がぼそりとこぼせば、すかさず高広が、
「それはこっちのセリフだっつーのっ。お前はこういうの慣れっこだろ? 俺なんか、今日の今日まで、平々凡々、お気楽に暮らしてた一般市民なんだよ」
と返し、自ら自動ドアの前に進み出た。
が、目の前のそれは微動だにしない。しん、と静まり返ったその場の空気。意表を突かれた二人は、思わず立ち竦んだ。
「センサーの故障かな?」
先に沈黙を破ったのは那智だった。
「中のオジサンたち、どうやって入ったんだろ?」
「彼らは、向こう側の人間だろ」
「なるほど」
感心したように頷く那智を、高広は訝しげに横目で見た。
と、店の奥から、コック服を着た小柄な中年男が、忙しない足取りでこちらに向かって来た。男はドアの前に立つと、履いている黒のスラックスのサイドポケットから小さな鍵を取り出し、それを自動ドアの鍵穴に差し込んで回した。
カチッと、開錠の音が小さく鳴った。
そうして、店主らしき男は自身の手で、自動ドアをスライドさせて開けた。
「まさかの手動かよ」
お笑い芸人さながらのツッコミを漏らす那智を、すぐさま高広が肘で小突いて制す。
「この店を通り抜けてようやく、真の濁瀬川地区に辿り着けるって訳か」
真っ赤な看板を見上げて高広が言った。入口はガラスの自動ドアになっていて、そこから店内を覗き見ることができた。『私は裏稼業専門です』と言わんばかりの、いかにもな風貌の男たちが、まばらに席を埋めていた。
「ヤバそうな連中だ」
那智が、溜息と一緒に弱々しい声を出す。
「まあ、お友達にはなれねぇだろうな」
言いながら、高広は滑らかな動きでジャケットの胸ポケットから取り出したサングラスをかけた。真っ黒なレンズの奥に薄っすら見えるその両目は、いつになく鋭い。
「気が乗らねぇな」
那智がぼそりとこぼせば、すかさず高広が、
「それはこっちのセリフだっつーのっ。お前はこういうの慣れっこだろ? 俺なんか、今日の今日まで、平々凡々、お気楽に暮らしてた一般市民なんだよ」
と返し、自ら自動ドアの前に進み出た。
が、目の前のそれは微動だにしない。しん、と静まり返ったその場の空気。意表を突かれた二人は、思わず立ち竦んだ。
「センサーの故障かな?」
先に沈黙を破ったのは那智だった。
「中のオジサンたち、どうやって入ったんだろ?」
「彼らは、向こう側の人間だろ」
「なるほど」
感心したように頷く那智を、高広は訝しげに横目で見た。
と、店の奥から、コック服を着た小柄な中年男が、忙しない足取りでこちらに向かって来た。男はドアの前に立つと、履いている黒のスラックスのサイドポケットから小さな鍵を取り出し、それを自動ドアの鍵穴に差し込んで回した。
カチッと、開錠の音が小さく鳴った。
そうして、店主らしき男は自身の手で、自動ドアをスライドさせて開けた。
「まさかの手動かよ」
お笑い芸人さながらのツッコミを漏らす那智を、すぐさま高広が肘で小突いて制す。