ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
「今日は休みね。入れないね。お客さん、帰るよろし」
男は、しっしっ、と、右手で追い払う素振りをする。
「客の扱いが雑すぎるだろ」
不満げに漏らした那智を、再度、高広が肘で小突いた。構わず那智は、
「いつ来たらいい?」
へらりと、媚びるような愛想笑いを浮かべて聞き返す。
「さぁ……先月の台風で、食材入って来ないね。『いつ』、答える、難しいね」
「でも中に人が……あのオジサンたちは客じゃねぇの?」
那智が指差すと、男はさっと振り返って見せ、けれどすぐ那智の方を向き直り、
「違う。彼らは従業員よ。ウェイターね、ウェイター」
平然と言い放つ。
「どんな求人出したら、揃いも揃ってあんなのが集まって来んだよ? 雇う方も雇う方だけどな。普通、第一印象でアウトだろ」
言った那智に、高広が三度目の肘鉄を食らわす。今度は些か力が籠められていた。うぷっと、那智が、呻き声に似た何かを小さく漏らした。
「お前、何言ってる? とにかく、今日は帰るね」
しかし男には、那智の嫌味が余りに回りくど過ぎて、ほとんど伝わっていなかったようだ。高広はほっと胸を撫で下ろした。
「いいから中に入れてくれよ。こっちは腹が減って死にそうなんだよ。あるもんでいいから、何か作って食わせろって」
言いながら、那智は男を押し退け店内に一歩足を踏み入れた。だがその時、ぬっと、巨大な何かが那智の前に立ち塞がった。
見上げるほどに背の高い、おまけにレスラー並みにがたいのいい大男だった。スーツを着ていても、胸筋が盛り上がっているのがはっきりわかる。
「ここはガキの来るところじゃねぇ。ガタガタ言ってねぇで、とっとと帰れ、小僧」
大男が凄みを利かせた低音を響かせ詰め寄るが、那智は一歩も退かず、それどころか、へらりと薄く笑って見せた。
「すごく強そうなウェイターさんだ」
「バカ、やめろっ!」
堪えきれずに高広が大声を張り上げるが、それと同時に、
「何だと? このクソガキ」
大男が那智の胸ぐらを左手で掴み上げながら、硬く握った右拳を振り上げた。
男は、しっしっ、と、右手で追い払う素振りをする。
「客の扱いが雑すぎるだろ」
不満げに漏らした那智を、再度、高広が肘で小突いた。構わず那智は、
「いつ来たらいい?」
へらりと、媚びるような愛想笑いを浮かべて聞き返す。
「さぁ……先月の台風で、食材入って来ないね。『いつ』、答える、難しいね」
「でも中に人が……あのオジサンたちは客じゃねぇの?」
那智が指差すと、男はさっと振り返って見せ、けれどすぐ那智の方を向き直り、
「違う。彼らは従業員よ。ウェイターね、ウェイター」
平然と言い放つ。
「どんな求人出したら、揃いも揃ってあんなのが集まって来んだよ? 雇う方も雇う方だけどな。普通、第一印象でアウトだろ」
言った那智に、高広が三度目の肘鉄を食らわす。今度は些か力が籠められていた。うぷっと、那智が、呻き声に似た何かを小さく漏らした。
「お前、何言ってる? とにかく、今日は帰るね」
しかし男には、那智の嫌味が余りに回りくど過ぎて、ほとんど伝わっていなかったようだ。高広はほっと胸を撫で下ろした。
「いいから中に入れてくれよ。こっちは腹が減って死にそうなんだよ。あるもんでいいから、何か作って食わせろって」
言いながら、那智は男を押し退け店内に一歩足を踏み入れた。だがその時、ぬっと、巨大な何かが那智の前に立ち塞がった。
見上げるほどに背の高い、おまけにレスラー並みにがたいのいい大男だった。スーツを着ていても、胸筋が盛り上がっているのがはっきりわかる。
「ここはガキの来るところじゃねぇ。ガタガタ言ってねぇで、とっとと帰れ、小僧」
大男が凄みを利かせた低音を響かせ詰め寄るが、那智は一歩も退かず、それどころか、へらりと薄く笑って見せた。
「すごく強そうなウェイターさんだ」
「バカ、やめろっ!」
堪えきれずに高広が大声を張り上げるが、それと同時に、
「何だと? このクソガキ」
大男が那智の胸ぐらを左手で掴み上げながら、硬く握った右拳を振り上げた。