ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
すぐさま那智が動く。右腕を内側から回し、大男の左腕を巻き取るようにして払い除け、反対の左手で、それをすかさず掴み取る。同時に右手で、捕えた腕の付け根を押し、壁に叩き付けた。

大男は、那智に背を向けた格好で、壁に押し付けられ身動きが取れなくなった。

ガタン、ガタタ、と大きな音を立て、中に居た男たちが一斉に立ち上がった。各々、その利き手を懐に忍ばせている。今にも四方八方から銃撃されそうな危機的状況。高広は、『皆人の方を連れて来るべきだった』と、己の人選ミスを悔やまずにはいられなかった。

だが那智は少しも動じず、

「ああ、ごめん。身の危険を感じたから、つい……」

そう言って、大男の拘束を呆気なく解いてしまう。高広はお手上げだと言わんばかりに、文字通り両手をゆるゆる挙げた。


「飛び道具とか、勘弁してくれよ。こっちは丸腰だぜ? 俺たちはあんたらとやり合う気は更々ねぇよ。ただ、聞きたいことがあるだけだ」

少しも悪びれることなく平然と言う那智に、高広は『もうやめてくれ』と心の中で懇願。

「バカかてめぇ。どんな質問か知らねぇが、どこの馬の骨かもわかんねぇヤツに、俺たちが答える訳ねーだろ。ここはお客様相談室じゃねぇんだぞ」

那智に捻られた左腕が痛むのか、二の腕をさすりながら大男が返した。

「『お客様相談室』って……おじさん、なかなか巧いこと言うじゃん」

「てめっ、ふざけんのもいい加減に……」

「待ってくれ!」

堪らず高広が口を挟む。片手を上げて、勢いよく店の中へ飛び込んだ。本音を言うと、いつでも逃げらるよう、出入り口付近にずっと居座っていたかったのだが。

「俺から説明させてくれ。あんたらが答えるか答えないか決めるのは、それを聞いてからでも遅くないだろ?」

高広は、かけていたサングラスを外し、ジャケットの胸ポケットにしまいながら言う。それは提案というより、懇願だった。


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