ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
高広は慌てて両手を挙げ、

「待て待て待て! わかった、三割でどうだ? これ以上は……」

「四だ」

初老の男が高広の言葉を遮った。

「なぁ、兄ちゃん。値段ってのはよぉ、売り手が決めるもんだろ? 五を三ってのは、いくらなんでも値切り過ぎじゃねーか?」

「……っですよねぇー。あんたの言う通りだ。わかった、四で手を打とう」

高広を取り囲んでいた男たちが、各々手にしていた銃を懐に戻し、椅子に腰を下ろす。それを見て高広は、小さく息を吐いた。


そこでようやく、那智の存在を思い出し、窺うようにそちらに視線をやれば、彼は店の隅に突っ立ていた。その顔は、まるで死人のように表情がない。何を考えているのか全く読めない。

いや、あいつのことだ、何も考えてないってのも有りうるな、と高広は呆れた。


「その怪我人をここへ連れて来い」

初老の男が言った。

「無理だ。今、そいつを動かすのは危険すぎる」

すぐさま高広は断った。こんな場所で、落ち着いて話などできるはずもない。しかも、込み入った内容になるだろうし、連中に聞かれたら不味い。

何としても、辻岡昴(つじおかすばる)の方を、ここから連れ出す必要があった。


「医者もここへ呼んでやるから、怪我人を今すぐここへ連れて来い。二度もおんなじこと言わせんじゃねぇ」

高広は黙り込んだ。

あと一歩の所で手札に詰るとか、まじないわぁ。那智は全く使えねぇし。さあ、どうする? どうするよ、オレ?

高広が必死で思考を巡らせていると、

「ウダウダうるせんだよ、クソジジイ」

やけにドスの利いた低い声が、高広の鼓膜を叩く。その振動はたちまち全身に伝わり、高広は身震いした。自分の顔から血の気が引いてゆくのがわかる。

やめてくれ、那智、と、祈る想いで恐る恐る彼の方を振り返れば、那智は、初老の男を上目づかいで睨みつけていた。


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