ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
重たいエンジン音が遠くに聞こえた。それはぐんぐんボリュームを上げる。

高広と那智はほぼ同時に、店のガラス越しに二人が来た道を振り返った。大型のワゴン車が唸りを上げて近づいて来る。少しだけ西に傾いた陽光を背に浴びていて、運転席は見えない。

減速する様子がないので居眠り運転かとも思った。と同時に自然と身体が動く。店の中にいた者たちは咄嗟に両サイドへ別れて壁際へと散った。

ワゴン車が店に突っ込む直前、甲高いブレーキ音が響く。もちろん遅い。凄まじい衝撃音と振動。その場に居た者は全員、反射的に腕で顔を覆い、飛散するガラスの破片からわが身を守った。

高広が恐る恐る顔を上げて様子を窺えば、その車体はガラスを突き破って半分店の中に突っ込んだ形で停止していた。

運転席の窓が少し開けられ、その隙間から小さな丸っこい果物みたいな物体が飛び出て来た。シュルシュルと不快な音をたてているところを見ると、果物のような可愛らしい物ではなく、物騒なものに違いない。そんな高広の予感は半分的中。

その玉からモクモクと煙が立ち上り、一瞬にして店内には煙が充満し視界が利かなくなった。

鈍い殴打音らしき音と、バサバサと次から次へと人が倒れていく音。そして時々、身体に衝撃を受けたことにより、体内から空気が漏れ出たような短い声。

呻き声が次第にハーモニーの層を増やしていった。

煙が徐々に薄まってゆく。

取り戻した高広の視界には、店の壁に添って横たわる男たちが映った。そして初老の男は側近の男に庇われるようにして角に立っていた。

彼らの目の前には、愛用のベレッタを片手で構え、不敵な笑みを浮かべている男。


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