ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
「どうして谷口さんが?」
運転席でハンドルを握る、厳つい顔した山ゴリラに尋ねる。ハンドルよりバナナの方が似合いそうだ。
漆黒の大型4WD、助手席シートのこの感触は久々だった。うん、相変わらず俺のキュートなヒップによく馴染む。
「お前、何だよその言い草は。俺が来なかったら、職場まで歩く破目んなってたんだぞ。それとも20キロ歩きたかったか? 最近お前、太ったよなぁ? なんなんだよ、そのだらしねぇ身体は」
俺が吐いた悪態は、何倍にもなって返って来た。お口の達者なゴリラさんだ。
「だらしない? どこがっ!」
「腹回りが」
「割れてないだけで、無駄肉はねーから!」
躍起になって主張した途端、谷口さんの左手がもの凄い速さで運転席から飛び出した――ように見えた。
殴られる、俺の思考がそんな恐怖に駆られたのは一瞬で、気付けば谷口さんの左手は、俺の脇腹をむぎゅうと摘まんでいた。