ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
今日も定時で仕事を終え、いつも通りさっさと帰り支度をした。
遅刻については、駅でちゃっかり遅延証明書を貰ってきたから、もちろんお咎めなしだ。俺、やるべきことはやる子です。
立ち上がって、椅子の背もたれに掛けておいたジャケットを着込む。そうして職場を後にしようとしたその時、もさ苦しい男が俺の前に立ち塞がった。
ここ(相談センター)に似つかわしくない、物騒な雰囲気を醸し出したその人。見慣れた髭面に、思わず顔をしかめてしまう。
「皆人、送るわ」
気持ち悪い違和感を漂わせ、谷口さんは優しい声色で言った。
だがしかし、ワイシャツの上にはショルダーホルスター。もちろん脇の下にはニューナンブのグリップ部分が覗いている。
バリバリ勤務中じゃねーか。現場へ直行コースじゃね?
嫌な予感しかしない。
「いえ、結構です。僕、電車通勤に慣れてますから。それに谷口さん、まだお仕事中ではないのですか?」
気性の荒いゴリラを刺激しないよう、丁寧にお断りした。