ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
いつものように背後からそうっと、忍び足で近付くけど、不自由な聴覚の代りに他の四感が人より研ぎ澄まされている乃亜は、すぐにその気配に気づいて、その美しい顔をこちらに向けた。

後ろから腹に両腕を回し、乃亜と俺たちのベビーを一緒に包み込んだ。

振り返るようにして俺を見上げ、幸せそうに微笑む乃亜に、そっと触れるだけのキスをする。


午前6時45分、ベランダへ出て一服。

その間に、食卓は乃亜の手料理で彩られる。


午前6時50分、朝食。

午前7時10分、食後の一服。

午前7時15分、歯磨き洗顔。そしてスエットから私服に着替え、午前7時25分、玄関で靴を履く。


玄関先まで見送りに来てくれた乃亜に再びキスをして、それからポッコリと丸く膨らんだお腹――の中のベビーにもキスをして、

「いってきます」

胸元で小さく手を振る乃亜に、しばしの別れを告げ背を向けた。


7時30分、我が家を出る。


いつもと何も変わらない。全てがいつも通り――

――――のはずだった。


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