ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
電車通勤の俺は、満員電車に揺られていた。乗車率200パー超えてんじゃね? ぐらいのぎゅうぎゅう詰め、隙間なんか少しもない。それどころか、身動ぎ一つできやしない。
何でか知らないけど、鼻の横がむずむずと痒くなった。けど掻けない。
掻けないと思うと余計に痒い。生き地獄だし、これ。
そんな中、
「もう! 触らないでよ、最低!」
女の甲高い声が車内に響き渡った。
今のこの状況、誰かの手が誰かの尻に触れても、当然といえば当然だ。仕方ないような気がする。
その声は妙に近くから聞こえたけど、自意識過剰な女の被害妄想が炸裂か、などと他人事みたいに思っていた。
が、ふと、胸の辺りから俺を見上げている視線に気付く。見れば、女がものすごい形相で俺を睨んでいた。
不穏な空気を感じて、思わず逸らしてしまった視線は意味なく空を彷徨った。