ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
アナウンスの要項を把握したらしい妄想女は、天井から俺へと視線を戻した。

そして、ばっさばさの人口睫毛の奥から、敵意剥き出しの瞳で俺を射抜くと、

「ちょうどいいじゃん。次の駅で、きっちり話つけようじゃない」

言って、薄気味悪い微笑を浮かべた。


機械の不具合とかその類のことで、念のため乗客全員を降ろして点検でもするんだと、誰もが首を傾げつつも言われた通り、お行儀よく順番を守って電車を降りた。


俺はというと、女の左手に右手首がしっかりと握られていて、ぐいぐいと引き摺られるようにして駅構内を進んでいた。

女は人混みの流れから逸れて、通路を左へと入る。そうして俺の手を引いたまま、女性のマークとWCの文字が書かれたプレートが壁に埋め込まれている入口を、躊躇うことなく通過した。


ようやく俺の手を解放して女は振り返る。

「ここならゆっくり話ができるわよね?」

「いや俺、一応男だし。女子便ってのは、やっぱ落ち着かねぇっていうか……」

すかさず言い返すも、

「はっ、痴漢が何言ってんだか。大好きな場所ベスト3には入ってんでしょ?」

嘲笑と共に吐き捨てた。

こんの、クソアマ……。


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