ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】
「どんな理由があろうと、派手な化粧はNGってことですか」

確認の意味で口にしたが、いいえ、と彼女は首を小さく左右に振った。


「化粧が派手な職員なんて、女性医師や看護師の中にもいくらでもいましたし」

「じゃあ、薬局長は悦子さんのことを良く思っていなかった?」

「ええ、多分。断言はできませんけど」

「少なくともあなたからはそう見えた、と」

「はい」

「理由に心当たりは?」

訊ねれば、彼女は少し考えるような素振りを見せ、やがて、

「妬み……だと思います」

俺たち以外誰もいないのに声を潜めて、酷く言い辛そうに答えた。


「と言うと?」

「さっきもお話ししましたけど、東郷さんは勉強熱心な方でした。だから薬局長よりも知識が豊富だったんです。医師が薬剤について何か尋ねる時、三上さん(薬局長)ではなく東郷さんに直接聞くことがほとんどで……」

「薬局長としては面白くなかった」

「ええ、そうだと思います。でもこれ、全部私の想像ですから」

「すぐに的確な答えが返ってくる人に訊くのは当然だ。余計な手間が省ける」

那智の率直な意見に、「ええ……まぁそうですけど」と彼女は遠慮がちに同意した。



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