鬼部長の優しい手
…もうどれくらい書類の山に
向き合ったか。
気づけば、辺りは真っ暗。
部署唯一の壁掛け時計が指す時刻は、
もう午後9時半を回ったところだ。
…今日は笠野と山本も残ってるのか。
珍しいな、あいつらはいつも
定時を少し過ぎた頃に帰ってるのに。
少し不思議に思いながらも、
真剣にパソコンに向かう二人を見る。
…笠野の前の、七瀬のデスクは空いたまま。
まだ、打ち合わせか?
二件あったと笠野に聞いたが、
これはいくらなんでも遅すぎじゃないか?
俺が七瀬のデスクを見つめながら、
そんなことを考えていると、
右斜めにある出入り口から、
やけに明るい声がした。
「只今、戻りました!
って、あれ?黛実と山本くんと…
…部長だけ?
ってそりゃ、そうか。
もうこんな時間だもんね」
と、一人で突っ込みながら、
元気よく七瀬が入ってくる。
さっきまで心配していたのに、
いざ七瀬を前にすると、
どうしていいかわからず
目を反らしてしまう。