鬼部長の優しい手
…似てるか?
いや…似てる。
俺はパソコン画面を見るふりをしながら
少し離れたデスクで対応に追われている
七瀬を見る。
…確かに、似てる…か。
いや、でもやっぱり
七瀬と紗耶香は違う。
七瀬の方が、ずっと意地っ張りだし、
七瀬の方が、ずっと強がりだし、
七瀬の方が、ずっと泣き虫で…
俺はそんなことを考えながら、
思わずにやけてしまう口元を隠しながら
七瀬を見つめる。
って、なに考えてるんだ俺は。
集中しようとしても、
目はすぐに七瀬の方にいってしまう。
心なしか、いや、確実に
さっきから七瀬も俺の方をちらちらと
見てはすぐ目をそらす。
…気にしてるんだろう。
俺がもう怒ってないか。
今日はもう帰ろう。
これ以上ここに居ても仕事は進まないし、
これ以上、七瀬に気をつかわせたくもない。
俺は手際よく荷物をまとめ、
続きは家でやろうと、今打っていた
お客様への返事を自宅にあるパソコンに
送り、出口へ向かう。
そう言えば、山本が戻ってきてないな。
今頃、俺が頼んだコーヒー4つを
抱えてぶつぶつと文句を言っているんだろう。
そんなことを考え、
思わず笑みをこぼす。
悪いな。山本。
コーヒーは机にでも置いておいてくれ。