鬼部長の優しい手
「ぶ、部長!」
荷物を持って出口へ向かう途中、
久しぶりに聞いた
七瀬からの“部長”の声。
「な、なんだ?」
突然すぎて、うまく声が出なかった。
「あの、私…
ここ最近、ずっと考えてたんです…」
俺の返事を聞いたあと、
七瀬は遠慮がちにぽつぽつと話始めた。
その場に妙な緊張感がはしる。
その雰囲気に手が少し、いや、
かなり汗ばんできた。
「考えてた…って、なにを?」
俺が発したその声は、心なしか
震えていた。
…七瀬の返事を待つ、この時間が
辛い。
ほんの数秒のことなのに、
何分にも、何時間にも思えてくる。
「…自分が部長に出来ることを。
あっ、もちろん、部長としては
私みたいな、ただの部下にこんなこと言われるのは迷惑だってわかってます。
わかってるんですけど…でも…っ」
真っ赤になって、泣きそうになってる
七瀬。
精一杯、言葉を選んで必死でしゃべろうとしている感じが伝わってくる。
『無理して話そうとしなくていい。
落ち着け、ちゃんと聞くから』って、
七瀬に言ってやりたいのに、
喉の奥につっかえて出てこない。
…俺は七瀬より年上なのに、
七瀬にばっか無理させて、
なにやってんだ俺。
微笑んでやれよ。
『大丈夫だ』って、
大人の余裕を見せてやれよ俺。