鬼部長の優しい手



「…部長、私これからもっと、
もっと、頑張りますから、だから…


部長も、もっと周りを見てください!
部長がそんなだったら、
紗耶香さんも不安で、きっと悲しんでますよ…?」




七瀬のその言葉を聞いた瞬間、
俺のなかでなにかが外れた。



「お前に紗耶香の何がわかる?」


「…っ!」




…違う、違う。
こんなこと言いたい訳じゃないんだ。


優しく、七瀬に触れてやりたいのに、
口をついてでてきた言葉はそれだった。





「紗耶香に会ったこともないお前に
あいつの何がわかるって言うんだ!」





…悪い、七瀬
俺はこういうやつなんだ。
最低なやつなんだ。

婚約者一人守れずに、
無邪気に、いつも笑顔でいてくれる
お前をすぐに泣かす。






「…わ、わかってます。
でも…!」



「黙れ!!!」







…ああ、また、
あの時と同じだ。
あの時、俺の家で怒ったときのように、
またこいつは泣くんだ





強がってみえて、




…すぐ泣くんだ。





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