鬼部長の優しい手
…俺たち2人の異様な雰囲気に、
笠野はいつの間にか作業をやめ、
静かに俺たち様子をうかがっていた。
…笠野は怒るだろうな、
もしかしたら、殴られるかも…
笠野は七瀬と仲がいいみたいだから。
…もういっそ、
七瀬が俺を殴ってくれたらいいのに。
バシッ
「…っ」
そんなことを考えていると、
頬に強い衝撃が走った。
痛みで顔が歪んだ。
今、俺を殴ったのは、
「…七瀬」
「部長の馬鹿。
そうやっていつまでもうじうじ
してればいいですよ!
紗耶香さんを悲しませて、
いつまでも立ち直れないまま、
部長なんて一生そうやって苦しんでればいい!」
「七瀬…!」
七瀬は俺の顔を打ったあと、
そう言い捨て、泣きながら走り去っていった。
「もう、ハラハラしましたよー、
部長。
逃げられちゃいましたね?」
呆然と立ち尽くす俺に
呆れたような顔で笠野はそう言ってきた。
…こいつ、なんで笑ってるんだ?
友人が泣いたんだぞ?
「怒らないのか」
「怒ってくれた方が
気が楽だったって?
部長って結構甘い思考してますよね」