鬼部長の優しい手
「…っ」
笠野のその言葉にハッとする。
こいつは本当に妙に鋭くて、
嫌なとこをついてくる…。
よく見ると
呆れたように笑う笠野の目は
笑っていなかった。
「部長、私
親友を泣かせた男に優しくしてやるほど、心広くないんです」
「…ああ」
…笠野は正しい。
俺だってわかってる。
紗耶香のことは忘れて、
前を向くべきだって。
そうすれば、きっと七瀬も泣かさなくてすむ。
…少し前に32の誕生日をむかえて、
いい年のおっさんになったな、と
しみじみと考えていたが、
全然ダメだ。
七瀬が絡むとダメだ、
すぐにかっとなってガキっぽくなる。