鬼部長の優しい手


「…っ」


笠野のその言葉にハッとする。



こいつは本当に妙に鋭くて、
嫌なとこをついてくる…。




よく見ると
呆れたように笑う笠野の目は
笑っていなかった。



「部長、私
親友を泣かせた男に優しくしてやるほど、心広くないんです」



「…ああ」





…笠野は正しい。
俺だってわかってる。


紗耶香のことは忘れて、
前を向くべきだって。
そうすれば、きっと七瀬も泣かさなくてすむ。



…少し前に32の誕生日をむかえて、
いい年のおっさんになったな、と
しみじみと考えていたが、






全然ダメだ。

七瀬が絡むとダメだ、
すぐにかっとなってガキっぽくなる。






< 111 / 188 >

この作品をシェア

pagetop