鬼部長の優しい手
「…また、ぼーっとしてる。
いつも騒がしいあんたが静かだと、
不気味だから、やめてよ」
「ちょ、それは酷すぎる!
俺だって悩みとかあるんだけど?」
主に黛実ちゃん絡みでね。
なんて、そんなこと言ったら、
また黛実ちゃんは“ふざけないで”って、
睨むんだろうけどさ
「俺、本気だからね?」
「なにがよ?」
「…いや、べっつにー」
…やば、今一瞬
本気で言いそうになった。
…このまま言って、
この関係を壊すような度胸は俺には
ない。
…でもさ、
本当に、結婚したいな、とか
思ってるんだよ?
って言ったら、黛実ちゃん
どう思う?
「…また黙った。
なに、なんか悩みでもあるの?
さては好きな女でもできた?」
後ろを歩く俺の方に、くるっと振り返り、にやにやと笑いながら、黛実ちゃんはそう言ってきた。
本当バカ。
“好きな女はお前だよ”って言ってやろうか。
人の気も知らないで、のんきなやつ。