鬼部長の優しい手



七瀬のそんな言葉に
なぜか、顔に熱が集中する。

何を言っているんだ。三十を過ぎた男の、だらしない姿を見て、可愛いだなんて。そんなの、そんなことを言うこいつのほうがよっぽど可愛い。


「上司に向かって、可愛いって、
そんなこと言われても嬉しくないぞ」



「あ!す、すみません!
失礼なことを……」



俺の言葉に、勢いよく頭を下げる七瀬


「いや、怒ってはいないから、顔をあげてくれ」



俺って普段そんな、怒ってるイメージが
あるのか?
ことあるごとに、謝ってくるな、七瀬は。


そういえば、ちょっと前
誰かに言われたな、


“鬼の塚本”なんて、おかしな呼び名。


鬼って……
そんなに怒ってたか?俺


そんなことを考えていると、
七瀬は何故か、申し訳なさそうな
顔をして頭を下げた。



「あ、あの、部長が寝てしまったあと、
悪いとは思ったんですけど、
部屋を歩き回ってしまって……
すみません」




「ああ、そんなことか。
別に大丈夫だ。俺こそ、いろいろ
悪かったな」


少しまえから思っていたことだが、



「七瀬、お前は謝りすぎだ」



「え?」


俺の言葉の意図がわからないのか、
七瀬は心底不思議そうな顔をした。




「七瀬から、聞く言葉は
いつも“すみません”な気がする」



なんというか、謙遜しすぎというか
消極的すぎというか、



その原因を作っているのは、


俺か?




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