鬼部長の優しい手
「部長、勝手に見たこと
やっぱり怒ってますか?」
「いや、怒ってないから…ほんと」
俺はまた、少し前言った台詞を繰り返す
七瀬に、どれだけ情けない姿を
見せれば気がすむんだ俺は…
「すみません…
で、でも部長
会社でも家でも仕事頑張ってて、
それを人に見せないのは、
やっぱりすごいな、って思いました!
私がこんなことを言うのは失礼だと思うんですけど…
いや、あの本当にすみませんでした…!」
そう言った七瀬は、真っ赤な顔をして
走っていき、
それと同時に玄関の扉が開閉する音が聞こえた。
こんな深夜に女が一人で外に出るのは
危険だろう。
思考はそうやってわかっているのに
体が動かない。
それと、脳ではもうひとつ別のことばかり考えてしまう。
真っ赤な顔の七瀬を思い浮かべ、
不覚にも、”可愛い“と思った自分がいたことは七瀬には秘密にしておこう。
柄じゃないし、そんなこと言われても
七瀬は迷惑だろうと
そんなことを考え、未だ赤いままの顔で
俺は呆然と立っていた。