鬼部長の優しい手
「まぁ、まぁ!
考え込んだって、仕方ないでしょ。
ほら、飲みなよ。ね?」
「うん、ありがとう」
あまり気乗りしないまま、
黛実が頼んでくれたトマト酎ハイを
手に取る。
って言うか、なんで私こんなに
落ち込んでるわけ?
べつに、こんなに悲しむ必要
ないよね?
部長が来なかった、ただそれだけなのに
なんで、こんなに体が重く感じるんだろう…
あの部長だよ?
恐くて、いつも仏頂面の
鬼部長だよ?
…なんて、自分に言い聞かせてるようにしか見えないよね。
「タン塩とか、頼んであげよっか?
赤身盛り合わせとか!」
「…あ、うん。じゃあお願いしようかな」
山本くんの明るい声色に
少し気が軽くなる。
優しいなぁ…山本くん。
「タン塩二人前と赤身盛り合わせ一人前で」
席に来た店員さんに、注文する山本くんの声を聞きながら、そんなことを考える。