気まぐれな君も好きだから
出社してすぐ、更衣室に向かう途中の廊下で遥希に会った。

いつもと同じ、頭を撫でてあげたくなるようなキラキラの笑顔。

何の疑いも持っていないみたいな無垢な笑顔に、少し心が痛む。



「おはよう、歩未。」

「おはよう。昨日は楽しそうだったね。」

「うん。あっ、そうだ!」

「え、何? 何?」



感傷に浸る間もなく、あっと言う間に遥希のペースに巻き込まれる。

キョロキョロ辺りを見回すと、遥希は私の腕を掴んでロッカーの影に引っ張って行き、顔を寄せて勿体ぶったみたいに小さな声で言った。



「ごめん。昨日、仁科に突っ込まれて、歩未と俺の関係、話しちゃった。」

「うそぉ?」

「でも、あいつは口固いから大丈夫。裏切ったりしないよ。」

「うん、それは何となくわかるけど.......って、どこまで?」

「え?」

「どこまで話したの?」

「今度デートすることと、夜、たまに会ってること。」

「........だけ?」

「え? あ、だからぁ........今は、キスまでの関係って。」

「..........。」

「あいつ、言いふらしたりしないから平気だよ。」

「そうだろうけど.......。」

「嫌だった? ごめん! もう他には絶対言わないから。」

「.......わかった。」
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