気まぐれな君も好きだから
俊は結婚するなら、本当は私に家庭に入ってもらいたいのだろう。

それは何となくわかる。

だって俊のお母さんは良妻賢母そのもの。

一度だけ会ったことがあるけど、仕事で忙しい会社役員のお父さんに変わってお家を守り、三人の子供を立派に育て上げた、典型的な良家の奥様っていう感じの女性だ。

にこやかで上品でキレイで、細かい所までお洒落にしていて、ああいう風に年を取れたら幸せだろうと、思わず羨望の眼差しを向けたのを覚えている。



片や我が家は、そんな絵に描いたように素敵な沢井家とは大違い。

見ていてイライラするくらい、うちの両親は仲が悪い。



原因は父の浮気だ。

三十代の頃、家族で移り住んでいた転勤先で、場末のスナックで出会った安っぽい女と父はイイ仲になった。

一度限りならまだしも、その女につぎ込むために父は借金を作り、それを問い詰めたら逆切れした挙句、その女と一緒に過ごすために家を出た。



小さな子供を抱えた専業主婦の母は途方に暮れ、借金取りから逃れるため、実家のある都内に戻ろうとしたけど、結局、一人で借金を返せないバカ男の父は「家族が大事だ」とか何とか言って、図々しくも着いて来た。

調子の良いことを言って、最終的にお金を返したのは母の両親だし、本当は悪評判が立って会社にもいられなくなったからに決まってるけど。
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