気まぐれな君も好きだから
それでも母が父を見捨てなかったのは、どんなに憎くてもこの子の父親はこの人しかいないから、子供の父親を自分の勝手な判断で奪っちゃいけないと思ったかららしい。

最も当の子供に言わせれば、この先何年もいがみ合いを見せられるくらいなら、そんなの別にどうでも良かったのに。



実際、一緒にいても何にも良いことなんてなかったし、父はずっと家族のお荷物であり続けた。

そこそこの企業で出世コースに乗っていたのに自らレールを踏み外してしまった父は、プライドが邪魔をして、その後もしばらくは、どこに転職しても長続きしなかった。

そしてその憂さを晴らすため、パチンコや競艇に興じては小さな借金を繰り返し、それを返していたのは、やっぱり母。

当然、私には「良いお父さん」の記憶がない。



だから母は働き通しだったし、資格の勉強もいろいろしていた。

生活を支えていたのも、私を大学まで行かせてくれたのも、全て母のおかげ。

私が仕事で評価されたいという気持ちを捨て切れないのは、そんな母をずっと見ていて、どこかで尊敬していたからだと思う。



さすがにもう借金を作って来たりはしないけど、母にずっと面倒を見てもらって来たはずなのに、未だに一家の主は自分だと思っているアホな父は、時折、有りもしない威厳を見せたがる。

些細なことでも家族に注意をされると反発し、母も今となっては負けていないから、いい年をした夫婦がみっともない罵り合いを始めることになる。
< 135 / 243 >

この作品をシェア

pagetop