気まぐれな君も好きだから
少し照明を落としてある煉瓦作りのお店は、確かに入ってみたくなるような何とも惹かれる雰囲気を漂わせていた。

運ばれて来たサラダとスープも美味しそう。

こういう何気ない選択にも俊にはいつも隙がないと言うか、失敗が無い。



彼女としてそれは喜ぶべきことなんだろうけど、完璧過ぎて、時々、自分がそのレベルに着いて行けてるのか不安になる。

作るまでは行かないにしても、俊に相応しい恋人でいようと頑張ってしまうのは、そういう自信の無さの現れなんだろう。



「昨日言ってた部門編成の変更絡みで、今度大がかりな異動があるみたいなんだ。衣料品本部がたくさん入れ替わる関係で他の部門の奴も動くから、三段階くらいに分けて発表されると思うんだけど。」

「ふ~ん。」

「あんまり興味ない?歩未だって異動出るかもしれないのに。」

「もうスペシャリストでも何でもないんだから、どこに行っても変わらないでしょ。」

「いや、わからないよ。」

「そう? あ、そういえば田本さんはどうなるの?」

「退職する。結婚して専業主婦になるんだって。」

「うそ? ほんとに?」

「田本さん、もう32だから。辞めるタイミング見計らってたらしい。」



尊敬して、目標にしていた田本さんが、余りにあっけなく寿退社することに違和感を感じる。

どっからどう見てもキャリアウーマンタイプの女性だけに、簡単に家庭に入ってしまうことが信じられない。
< 158 / 243 >

この作品をシェア

pagetop