気まぐれな君も好きだから
上機嫌で語る田本さんの話は、衝撃だった。

全く考えたことがない訳じゃないけど、転職について、今まで本気で調べたりしたことはなかった。



言われてみれば、この先、この会社にいても、28才の私は結婚退職へ向かってカウントダウンしながら、同じような仕事をくり返すだけだ。

仕事は好きだけど、何の目標も持たずにひたすら同じことを続けていれば、モチベーションが下がってしまうのは目に見えている。



そういう考え方もあるんだな..........

言われた通り、外に目を向けるのもアリなのかもしれない。

また頭を悩ます課題が、一つ増えた気がする。



私が辞めるって言ったらどうする?って試しに聞いてみようと思ったら、斜め向かいにいたはずの古谷君がいない。

キョロキョロしてみると、いつの間にやら私の背中合わせにいて、隣のテーブルでお姉様達に囲まれ、責め立てられている。

田本さんが熱く語っている間に、連行されたようだ。



「あの子さぁ、態度デカ過ぎ。伝票のサインが一カ所抜けてたくらいで、事務所まで呼び出すとか、おかしくない? 急ぎじゃないんだから、会った時に言えばいいことでしょうが。売場の人間、舐めてんのかっていう。」

「ははは.....そんなこと、されたんすか?」

「最近イイ気になってんじゃないの? 言ってやってよ、売場はそんなに暇じゃないって。」

「え、俺が? もう店が違うんだから、何も関係ないじゃないですか?」

「いや、関係ある。」

「なんでですか?」

「うわぁ、しらばっくれるんだ。」

「.......何をです?」
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