気まぐれな君も好きだから
驚いて声の方向に振り返ると、下を向いたまま、赤部さんが黙々と電卓を叩いている。



「そ、そうなの? 知らなかったなぁ。」

「やっぱり。てか、古谷さんと何かあったんですか?」

「へ? いや、何にもないよ。でも、なんで?」

「事務所の人間、なめないで下さい。久保さんがここに異動して来てから、衣料品の店間振替先、やたらめったら品川店ばっかりになっちゃったし、伝票めくってもめくっても『古谷』っていうサインが出て来てたのに、いきなり古谷さんのサイン見なくなっちゃったら、アホでも何かあったって思うんじゃないですか?」

「.....そうかもね。」

「別れた彼女、私、大っ嫌いなんですよ。ただでさえ嫌いなのに、事務所の社員の会議の時、内緒だから、秘密だからって古谷さんと付き合ってるアピールしてるの見て、かなりムカついてたんで、ざまぁ見ろって感じです。」

「そうなんだ。私、その子、よく知らないんだ。」

「古谷さん、新店応援で見たことあるんですけど、イケメンですよね。なのに、誰とも付き合わない。」

「..........。」

「事務所にいると、伝票とか電話の引継ぎで仲が良い人ってわかっちゃうんで、古谷さんと久保さんが異常に仲良しなの、事務所の社員の中では結構有名なんですよ。だから古谷さんは、久保さんのこと好きなんだろうっていう憶測も飛んでました。」

「そ、そうなんだ。ちょっとビックリ。」
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