気まぐれな君も好きだから
そんな素振りは全く見せなかったから、その時はとにかく驚いた。

みんなの憧れの人が自分の彼氏になるなんて、夢を見ているみたい。

考える間もなく、すぐにOKしてしまったのを、今でもハッキリ覚えている。



その日まで、親切に優しく仕事を教えてくれるのは、単に上司としての義務感からなんだと思ってた。

それだけじゃなかったって気付いたら、俊の部下になってからの日々を振り返るだけで、ものすごくドキドキした。

手が届くはずのない存在だと思ってたから、本当に本当に嬉しかった。



だけど、実はその頃、私には気になっている男の子がいた。

気にはなるけど、仲が良過ぎて、その気持ちが恋愛感情から来る「好き」なのかどうか、判断に迷っている段階ではあったけど。



でも俊に告白されるという出来事は、当時の私にとって身に余るほどの幸せだったから、すっかり舞い上がってしまい、しばらくは彼に思いを巡らすこともなかった。

彼のことはやっぱり友達、同期の気の合う戦友として「好き」なんだと思い直し、そこで自分にもう一度問いかけることもせず、心の隅にその存在を追いやろうとしていた。
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