髪から始まる恋模様【SS集】
「…本日はご迷惑をおかけして
誠に申し訳ありませんでした。
キミコ店長の代理として
カットを担当させて頂きます。
【S&G’s本店】副店長のタイチです。
カリン様…よろしくお願いします。」
そう言って目の前の男性は
爽やかな笑顔を浮かべながら
私に名刺を差し出した。
「…あっ、こちらこそ…。
よろしくお願いします。」
私は戸惑いながらも
その名刺を受け取った。
『【美容室S&G’s本店】副店長
三田村 泰知(みたむら たいち)』
タイチ君の本名が書かれた名刺。
彼は確か25歳だった筈だけど
もう本店の副店長だなんて…。
そっか…。
アシスタントから昇格して
スタイリストの夢叶えたのね。
私に話してくれてたね…。
でも、きっと彼は
そんな事忘れている筈だし
私の事だってきっと…。
だから私は
あえて初対面と平静を装って
こちらからは何も言わなかった。