淡雪の恋



昴はなぜか心配そうに俺を見る。



「なんだよ」


「……春さ、まだ引きずってたりする?」


「何を?」


「その、さ……那千(なち)先輩のこと」


「……あぁ」



久しぶりに聞いた名前だな。



「那千先輩か……懐かしいな」



中学時代の部活の先輩で、俺の初恋の人。



「いや、確かに那千先輩は春にとっては初恋の人で、その人のこと忘れられないのも分かるけどさ?
そろそろ新しい恋もした方がいいんじゃないか?
だったらとりあえず合コンとか参加して出会いを求めないと…」



ぽんぽんと俺の肩を叩いて昴は熱弁する。


なるほど……だから昴としては珍しくあんなにしつこく誘ってたのか。


あのときはなんだかんだで迷惑かけたからな。



……まぁ、昴には悪いけど



「別に、俺那千先輩のことは引きずってねぇよ?」


「へ?」



ぽかーんとした昴の顔に思わず笑いそうになる。



「……引きずってない?」


「あぁ」


「…………」


「…………」



なんだこの微妙な感じ。



「は、ちょ……今までの俺の苦労は?」


「全部意味ないな」


「ふざけんなよー…」



机に伏せて項垂れる昴。



「じゃあなんで春は新しい恋しようとしないわけよ?」


「必要ないから」


「じゃあ一生春は独り身か。寂しいなぁー」


「そうじゃなくて…」



あぁ……そういえば、あのときのこと話したことなかったか。



「俺はいいんだよ。そのうち"運命の人"が迎えにくるから」


「は?春くん大丈夫?頭おかしくなった?」



こいつ……殴ってやろうかな。



「那千先輩と別れた後、俺、沈んでただろ?」


「そうだな。あのときの春は話しかけづらかったわ。なんかトゲトゲしてて」


「悪かったな」



でも、初恋だった俺にはそれぐらいショックなことだった。






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