淡雪の恋
「しばらくたったらもとの春に戻ってたから安心したけど、那千先輩が卒業してったあとは落ち込んでたし……まだ先輩のこと引きずってると思ったのにさ」
全部俺の勘違いかよ、と子供のように拗ねてコーラをブクブクと泡立てる。
そのうち炭酸なくなるな、それ。
「確かに那千先輩と別れてからはショックで沈んでたけど、那千先輩が卒業した後のは違うからな」
「……どういうこと?」
「那千先輩と別れたあとに好きな子できて、その子とはその卒業の日に会えなくなったってこと」
「………は?」
今度もぽかーんとした昴に俺は小さく吹き出す。
こんな顔の昴を今日だけで二回も見れるなんて、明日は雨かもな。
「えっ、俺聞いてないよ!?」
「言ってないし」
当たり前だろ。
「じゃあ何?春はまだその子のこと好きなの?
もう六年経ってるのに?」
「そうだけど」
「まじかよ。春、一途〜」
「…………」
こいつ、殴っていいかな。
絶対この状況からかってるぞ、これ。
「あ、じゃあ春のそれってその噂の子にもらったやつとか?
確かその頃からつけてたよな?」
そう言って昴は俺の胸元を指差す。
そこには小さい雫の形をした石がついているネックレスがかかっている。
「……そんなんじゃないけどな」
石に触れるとひんやりとした感覚が伝わってくる。
まるで最後に触れた、彼女のような……
「これは最後に会ったとき、彼女が唯一残してくれたもの」
それ以外に残っているのは、あの日初めてに触れた彼女の体温と、過ごした思い出、俺の気持ち。
そして彼女が言った"約束"。
「形のあるものは、これしかないんだよな」
ぽつりと漏れた言葉。
これがあったからこそ、俺は彼女との思い出を持ち続けていられたんだな。