淡雪の恋
それぐらい彼女と一緒に過ごしたあの冬は俺の中で、儚い、儚い思い出だ。
「その子がいるから春は新しい恋はいらないわけね」
ズズー、とコーラを飲み干した昴が俺を見る。
「でもさ、悪く言うことになるけど、その子が春をまだ思ってるかなんて分からないじゃん?
それでも春はその子を思うの?」
いつもはどこかふざけた感じの昴が、目に真剣な光を宿している。
ほんと、こいつは自分より他人のことを考えるよな。
だから幼馴染みでいられたんだけど。
「おい、春。なんで笑うんだよ」
「ふっ…いや、なんでも?」
訝しそうに見る昴にまた笑みが漏れる。
「昴も会えば分かるよ。
彼女は……俺より一途だから」
「?」
「いや、一途と言うよりは真っ白って言ったほうがいいかもな」
「なんだそれ」
ますます訝しそうな顔になる昴から目線を外して、俺は外の景色に目を向けた。
大学の構内には桜の木が植えてあって満開に咲いていた。
「そんな話聞いたらもう春誘えないな」
あーあ、残念、と言いながら昴はちょっと嬉しそうだ。
口には出さないけど。
「そうだ、春知ってるか?」
「何を?」
「今年大学に入って来た子でかわいいって有名な子」
「知らない」
ただでさえ今は恋愛には興味ないのに俺が知るわけないだろ。
「人づてで聞いたんだけど、確かその子もここに来た理由が"運命の人"に会いに来たんだって」
「…へぇ」
「すごいかわいかったし、俺、狙おうかな〜」
「ふーん……」
「春くん、ちょっとは興味持とうよ」
しくしくと泣き真似をする昴は置いておき、俺は少し考えていた。
「おーい、春ー?」
「……なぁ、昴。その子の名前って何か分かるか?」
「おぉ。春が女の子に興味を持った」