恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



 そんな思いが古庄の中に漂ってきたが、それを振り払うように作業に没頭し始めた。
 古庄は、何としてもこのモザイク画を完成させたかった。もちろん、これの作成に夏休み前から準備してきた生徒たちのために、そして――。



 コンコンコン……



 その時、教室の窓を叩く音が聞こえた。生徒たちと古庄の視線が、一斉に窓の方へと向く。
 そこには、帰ったとばかり思っていた真琴が、ひょっこりと顔を出していた。古庄は席を立って、窓を開けに行く。


「廊下の方の出入口を開けてもらえますか?」


 窓越しに真琴からそう言われて、古庄は廊下の突き当たりの出入口へと向かった。特別教室棟は、管理棟と違ってセキュリティーが入っていないので、オートロックにはなっておらず、中から鍵を開けると出入りが出来る。

 古庄が古い校舎の重い引き戸を開けると、真琴は大きなレジ袋を両手にぶら下げて立っていた。

 
「お弁当を買ってきました。お腹が空いたでしょう?」


 時計を見るとすでに8時を回っている。古庄自身は神経が高ぶっているのか、空腹を感じなかったが、育ち盛りの生徒たちは相当ひもじい思いをしているに違いなかった。

 予想通り、生徒たちは真琴の登場に、真琴よりも弁当の到着に大喜びした。真琴はもう一度車との間を往復して、飲み物や作業の間に摘まむお菓子の類を運び込んだ。


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