恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



「……ありがとう」


 真琴の気遣いに、古庄は心の底から感謝した。自分一人だったならば、生徒たちの空腹に気づくのが、ずいぶん遅くなっただろう。

 古庄の言葉を聞いても、真琴はいつものように、ほのかに笑っただけだった。
 見返りを求めず、感謝の言葉さえも遠慮するような真琴の態度に、古庄の中の真琴への愛しさが募って、体中の血が逆巻き震えが走った。



 真琴に一目惚れしたのは、去年の春だ。
 性格や思想や生い立ち、その声さえ知らないのに、古庄は真琴に恋をした。それ以来、真琴との些細なことが積み重なって、いろんな真琴のことを知り、その度に古庄の想いはどんどん深くなっていった。

 こんな風に、真琴が古庄の手足になるように、そっと手助けしてくれる時は特に。常に気にかけて、見守ってくれなければできないことだ。自分を犠牲にできる、懐の深い人間でなければできないことだ。


 そんな真琴が、愛しくてたまらない。

 今はもう、出会ったころの淡い想いが滑稽に思えるくらい、一年間という時間に鍛えられて、真琴への想いはもっとずっと深く強くなってしまっている。もう、真琴が傍にいない自分なんて、何の意味もなかった。それほど、真琴は古庄にとってかけがえのない存在になっていた。


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