恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「賀川先生、下に行って、絵が傾いてないか確認してもらえますか?」
生徒の一人から、声をかけられる。
「分かった」
真琴はうなずいて、急いで階段へと向かった。
モザイク画は近くで見ていても、何が描かれているのか、よく分からない。生徒たちからも古庄からも、何をモチーフにしているのかは、聞いていなかった。
――早く、絵が見たい……!!
逸る心を抑えながら、真琴は廊下からの出入り口に置いてあった靴にはきかえて、中庭へと出る。
徐々に明るくなっていく、秋の朝の澄んだ冷たい空気の中、校舎の壁を覆い尽くすモザイク画が浮かび上がって、真琴の目に映される。
その瞬間、真琴に鳥肌が立った。
五色に塗り分けられた小さな色の粒が集まり融合して描き出しているのは……、絢爛に咲き誇る校門脇のしだれ桜。
モザイク画の見事なまでの再現力に、真琴は圧倒されて声も出ず、ただ立ち尽くしていた。
すると、屋上にいる生徒たちから声がかかる。
「賀川先生ー。どうですかー?傾いてませんかー?」
我に返った真琴が、絵全体のバランスを確認して、屋上を見上げる。